本日もいつもどおりダラダラと時間を飛び越し時は放課後。
僕とμ's御一行はアイドル研究部とやらに足を進めていた。
実は先程生徒会室に部活申請をしに行ったのだが断られてしまった。
この学校にはアイドル研究部と呼ばれる部活があり、目的や方向性が似ている部活は2つも作れないらしい。多分部活動予算の関係だろう。
キッパリとは断られずにアイドル研究部と話をつけてくるように、と穂乃果達3人は東條さんから提案された。
東條さんは少なからずμ'sの敵ではないのだろう。
東條さんはμ'sにどんな思い入れがあるのだろうかと思考を巡らせながらスクールアイドル部室を目指して横に2列に並んで歩く穂乃果達の背中を追っていると真姫が足を緩めて僕との距離が徐々に縮まる。
やがて僕は真姫に追いつき隣に並んだ。
「最近、仲良いわね、穂乃果達と、、、」
真姫は前を歩く星空さんと小泉さんの足元に視線を向けている。
表情はどこか足りず悲しく見える。
「ああ。同じクラスだからな。」
そんな真姫を横目で一瞥した後に視線を戻しながら答える。
真姫は話を進めることはない。
前を歩く5人の空気と僕と真姫の2人の空気はどこか違った。
真姫とはいつもこんな感じで近すぎず遠すぎずのよくわからない空気感だったので僕はあまり気にしていない。
そしていつもどちらかが何かを思いつき話を切り出す。そんな感じだ。
「明日の夜、一緒にご飯食べない?」
今回は真姫が先に切り出した。
僕が真姫の方に首を曲げて視線を向けた瞬間目が合った。
真姫の綺麗な髪がまだ横に揺れている。
真姫の表情から寂しさは感じられなくなっていて少しずつ顔が紅くなっていく。
「私じゃなくてパパとママが一緒に食べたいって言ってたのを思い出したのよ。」
真姫の瞬きと共にまた髪を横に揺らす。
真姫は左手の人差し指でカミノケクルクルしながら窓の方に視線を逸らし続ける。
「ああ、わかった。じゃあ明日おじゃまするよ。」
僕はそんな真姫から視線を逸らすことなく答えた。
真姫は前を歩く5人の足元に視線と首の向きを戻した。
「、、、そう。」
すると真姫は横目で僕をちらりと見た。
—
僕はアイドル研究部に関してこれっぽちも知らないものだから先導する穂乃果達の背中を追うことしかできなかった。
窓のほうに目をやり天気を覗いてみると薄暗くどんよりしていたが雨模様はこちらから認識することはできない。
真姫と肩を並べ前を歩く彼女らを追っていると目的地に到着した。
そこでどこかで見た覚えのある女の子とばったり出会った。
女の子は僕らを見た瞬間顔をひきつらせて驚く。
穂乃果達もどこか見覚えがあったのか、目を丸くして驚いた。
「じゃあ、もしかしてあなたが,,,あなたがアイドル研究部の部長!?」
穂乃果は驚きを隠せず言葉を途切れさせながらも女の子に問いかける。
女の子はひきつらせていた表情から眉を顰めさせる。
少し焦っているのだろうか、表情から簡単に読み取れた。
女の子のしかめ面を見て僕はなぜ彼女を知っているのか分かった。
ここ最近毎朝会うたびに楽曲提供をやめろと怒鳴りつける女の子だ。
穂乃果達も見た覚えがあるということはおそらくμ’s批判をしたのはこの女の子だ。
女の子の表情を見る限り僕の推測は間違っていないだろう。
すると、女の子は猫の威嚇のような声を上げながら右手を振り回し僕たちはしりごむ。
その隙に部室に駆け込み、勢いよくバタンとドアを閉める。
「部長さん、開けてください!」
穂乃果が部室のドアをたたきながら中に籠ってしまったアイドル研究部の部長であると思われる女の子に問いかける。
しかし、女の子からの回答は無くドアが開けられる気配がない。
「外から行くにゃ!」
星空さんがそう言って渡り廊下の方へ駆け出した。
あっという間に壁に吸い込まれ星空さんの姿は見えなくなった。
僕らは部室の前で女の子が顔を出すのを待っていたのだが、その後数分もしないうちに星空さんが女の子を部室前まで引っ張ってきた。
—
僕たちはやや強引にアイドル研究部の部室のドアをくぐる。
その先で見えた光景は予想外なものだった。
右に見える棚にはアイドルのCDや雑誌などが押し入れられていてそのパンパンな棚の上にはポスターが貼られている。天井からはバルーンのようなものがつるされていて部屋全体がカラフルに映って見える。
あの無機質な部室のドアをくぐったとは思えないほどだ。
校内にこんな空間があることを初めて知った。
真姫達も興味深そうに、外の世界とは違った色に彩られる部室を眺めていた。
しかし僕はとあるポスターから目が離せなくなっていた。
女の子3人がこちらに笑顔をよこしていて背景には斜めのストライプに青い文字でA-RISEと刷られている。
どこかで見覚えがあるのだ、センターでウインクをしながらこちらに笑顔を向ける女の子の姿を。
何かを思い出せるのではないかとおもいポスターを見入っていると、左手の甲から違和感を感じた。
違和感の正体を探るため視線を移してみるとそこには真姫の細くて長く綺麗な指が僕の手の甲をつねっているのが分かった。
僕が自分の手に視線を向けるのとほぼ同時に真姫はつねるのをやめたので違和感はなくなっていた。
僕は真姫の目に視線を移しつねった理由をうかがう。
すると、真姫は視線をそらし、ベツニとだけ呟き黙り込んでしまった。
「勝手に見ないでくれる。」
僕と真姫の空気を変えたのは不満そうに肘を立てる部長の言葉だった。
部室に押し入ってじろじろと物色するように眺める僕たちが鬱陶しいのだろう。
「こ、、、こ、これは」
すると小泉さんが何かを見つけたようだ。
「伝説のアイドル伝説DVD全巻ボックス!持ってる人に始めて会いました!」
小泉さんがDVDボックスとやらを両手に部長に迫った。
今まで見たことがないくらい小泉さんは興奮しているようだ。
そんなに珍しいものなのか、その伝説DVDとやらは。
「そ、そう。」
部長さんは若干引き気味だ。
「すごいです。」
「ま、まあね。」
「へ~、そんなにすごいんだ。」
そんな二人のやり取りに穂乃果が口を出した。
「しらないんですか!?」
どうやら穂乃果は小泉さんにエンジンをかけてしまったらしい。
エンジンのかかった小泉さんは凄まじかった。
今まで見たことがないほどペラペラと次から次へと言葉が続き止まることがない。
小泉さんの話に途中まではついていけたのだがやがて置いていかれ意味がわからなくなった。
ひとつわかったことは、このDVDボックスは珍しいことくらいか。
「家にもうワンセットあるけどね。」
部長さんが自慢げに言うと小泉さんは尊敬の眼差しを向ける。
「じゃあみんなで見ようよ。」
「だめよ、それは保存用。」
穂乃果が提案するときっぱりと部長さんが答えた。
すると小泉さんは少し涙声を上げながらパソコンデスクにとろけるようにしてうつむき幸せそうに落ち込んだ。