2022/01/23

比較級

ここに記す話は本当にあったかもしれない僕の日常の話。

周りの人を知らず知らずのうちに巻き込んだとある波の話です。 






ある日、学校で英語の授業が行われた

授業では比較級について取り上げられた

文字通り比較級というのは物体aと物体bを比較する文法

物と物を比較する文法である

その日の授業は比較級にも慣れてきたということで自分で英文を作りそれを発表するという内容だった。


僕は英語が得意ではないが嫌いではない

むしろ好きな方である

英語を勉強していると世界中の人々と意思の橋が繋がって構築されてくように感じる。


僕は比較級を含んだ文を作れなかった

なぜかって?

ネタがなかったからだ

先程書いた通り比較級を構成するにはなにか対象になる物体が必要である

しかしその時僕には直ぐに頭に浮かんでくる物

それがなかった

とても焦った

その日の日付は自分の出席番号

これは確実に当たると前日から予期していたのに

怠けた

比較級なら行けるって

いや違う

比較級が出来ない訳じゃない

思い浮かばない

今これを書いてる時にはすぐに頭に出てきたのに

ほら、猫だの犬だの、catだの

猫言(ねごと)は寝て言えとでも言われるかもしれないな

他の奴らはもう文が完成しているのか少しクラスにどよめきが走った

これを見かねた教師はみんな終わってるようだしもう発表しちゃうかー、と言い出した

やばいな

やばいぞ

やばいねい

これしか頭になかった

まだ文を作ってる奴がいるとも知らずに教師は

「それじゃ、やるか、今日は17日、んじゃ、めぐりどうぞ」

今でも覚えているよ

その日のニッコリと笑ったあの教師の作笑を

いつも作笑が凄いと思ったが

その日のは断トツだった

その作笑を眉毛睫毛眼孔瞼まで全てを、、、

なんでもない

わすれてくれ

話を戻す

今、僕がその時どんな気持ちだったかを書くのはそれほど重要ではない

ここからがいちばん重要

この文を書く所以となった出来事だ、


教師に指名されたが答えることが出来なかった

それを見かねた教師が

「一緒にやろうか」

と言ってきた

続けてなにか好きな物はあるかと問われた

その時僕は、アニメです。と答えた

「へぇーアニメ好きなんだ、んじゃ好きなキャラとかいる?」

と続けて聞かれた

ここで俺は

「エミリアたんです」

と答えてしまった。

教室が凍った

こんな寒い冬の真っ只中

温度が一気に下落した

その時の自分は何か間違ったことを言ったか分からなかった

しかし教室の雰囲気がおかしいことはわかった

「、、、あ〜、あの異世界アニメのヤツね、

エミリアだっけ?」

と教師が苦笑で問いかけた

先程までの上手く取り繕われた作笑は綻んでいた

何言ってんだこの教師は

いま僕はエミリアたんだって言ったよな

俺のエミリアたんへの情熱が伝わってないのか

この教師は日本が読み取れないのか

英語なんて教えてる暇ないだろ

とか思っていた

後々考えればその時教師は僕を助けようとしたのかもしれない

「はい、エミリアたんと、レムりんが大好きです」

僕が出した答えはこれだった

下落した教室の精神気温はとうに絶対零度に接近していた

これ以上は下がるはずがない

「そ、そうかぁ、それじゃ、文を作ってみましょうか」

と教師が掠れた声で呟いた

他の奴らはいつも通り下を向いたり、寝たフリをしたり、何も考えずにただぼーっと一点を見つめたりしていた

しかしいつもとどこか雰囲気が違った。

しかしその時の僕にはわからなかった

今、僕が置かれている状況を。

静かに凍え、酸素の熱運動さえも止まってしまったかのように思える教室でひとつの言葉が響いた

「あ、ラムリンも好きですよ、みんな大好きです。まぁイチオシはエミリアたんですけどね」

それはとある1人の男が発した。

それは僕だった。


終わった

全てが終わった

この世には絶対零度より低い温度が存在するということがわかった

いや元々は存在しなかった

僕が創ってしまったのだ

絶対零度より低い温度を、

そう僕は新世界の神になったのだ

わろわろわろーろーろわろーろろーろわろ

この時の周りからの視線、状況など説明する必要はないだろう

これを読んでいる全員が容易に想像できることだ

いや、容易には無理か、、、

どうだ?

共感性羞恥心で消えたいかい?

戻す。


教師は何も言わず小さく頷きながらチョークを取り黒板に英文を書きはじめた

書かれた英文はこうだった


Ramu is as loved as Rem.

Emilia is more loved than Ramu.

Emilia is the most beloved of the three.


それに俺は切れた

この教師は耳がないのか、それとも脳みそがないのか、またもや日本語が分からないのか

「僕は、エミリアたん、レムりん、ラムリンって言ったよな」

と気張りの良い声で言った

教師は諦め、しけた顔をしてこう書き直した


Ramurin is as loved as Remrin.

Emiliatan is more loved than Ramurin.

Emiliatan is the most beloved of the three.


これでいいんだ

とか思いながら板書した

さぞかし他の奴らはこの文に違和感を持っただろう

しかし諦めた顔をした教師の顔を見て彼らは察したのだろう

その時の教師の顔は先程の作笑の原型を留めてはいなかった

彼らは板書を始めた

それを見た僕は少し気持ちが良かった


そして授業は終わった

その後、僕には特に何もなかった


家に着いたころふと今日あった英語の授業について思い出した












消えたくなった    end.220123