学校中の生徒が待ちわびた昼休みにて、他生徒達は学校中に散らばり仲良く友達と昼食を食べている中、僕は図書室で適当な本をだらだらと読んでいた。
この時間の図書室はほとんど人が見当たらなかった。この学校の敷地が広いからであろう、生徒たちがそれぞれバラついており、人口密度自体低いのだ。
ましてや、図書室。この学校は決して偏差値が低く、本を読む生徒が少ないという訳ではない。しかし、B棟3階に位置するこの部屋から放たれる独特なオーラというものは、現代のティーンネイジャーを引きつけることはなかった。
僕はこんな部屋が好きだった。
空気はしんみりとしており、とても居心地が良かった。
「ねぇ、ちょっといいかしら。」
だらだらページをめくろうと手をかけた時、綺麗な赤髪を持ち紫色の真珠のような目が特徴的な少女、西木野真姫に話しかけられた。
「ん、どうしたの?」
「とある先輩に曲を作ってくれって頼まれたのよ。」
とある先輩とはアイドルにならないかと誘ってきた先輩だろう。
真姫から見て先輩と言っても僕にとっては一応同級生ではあるが。
真姫がこの前、その先輩の話をしていた時のことを僕はよく覚えている。真姫は少し嬉しそうに僕にその話をしたのだ。そこには照れ隠しにも見える微量の怒りマークが所々に見えたがとても嬉しそうに語っていた。
「、、、作ってあげればいいんじゃないかな。」
「、、、そうね、、、あ、あの、、、そこで冬に頼みがあるんだけど、、、」
僕はだんまりと真姫の目を見て続きを促した。
「、、、へ、編曲をお願いしたいノ!作るからにはふざけたものつくりたくないし、、、そ、それに編曲とかは冬の方が得意デショ!、、、だ、だから、、、その、、、」
「いいよ」
僕は真姫の言葉の続きを受け取るように答えた。
「、、、そ、そう」
彼女はそう答えた後、少し照れるように斜め下を見ながら口を開いた。
「あの、ありがとう」
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昼休みが終わりそれぞれの教室へと向かって歩いていると、隣を歩いている真姫がぽつりとこぼした。
「次は病院にいつくるの?」
「次の日曜日かな。だいぶ練習も出来たし。」
僕は真姫の両親が経営している病院の患者に向けて音楽を披露するボランティアを月に一度のペースで行っていた。小さなコンサートのようなものだ。病棟から少し離れに位置する小さなホールで行っていた。ステージはとても狭くグランドピアノがあるだけでとても窮屈に感じた。まあ、元々コンサートをするために作られたものではないので文句は無いし、ホール自体が小さめで音楽を聴いてくれる患者と近くで触れ合えるので僕にはこれ以上ないステージだった。
患者に聴きたい曲のリクエストをもらいそれに応えて演奏することが僕のボランティアの内容だ。年齢が全員バラバラなので、知らない曲に出会うことが多々あったが練習をしていると自分自身も知らなかった曲を好きになれるので僕はこのボランティアが好きだった。
「、、、そう。」
真姫はもう一度ぽつりとこぼした。
そして思い出したかのように言葉を続けた。
その様はししおどしのようだった。
「そういえば、ママとパパが冬とご飯を食べたいと言ってたのを思い出したわ。、、、だから、日曜日のコンサートの後とかどう?」
ご飯を一緒に食べたいのは彼女の両親だけなのかと思ったがこれは真姫なりの照れ隠しなのだろう。
「わかった、じゃあお言葉に甘えて夕食いただいていくよ」
僕は軽快に答えた。
そんなことを話しながらそれぞれの教室への分かれ道についた。
僕は小さく手を振りながら言った。
「じゃ、またね。」
真姫も小さく手を振り返した。そこには微笑があった。