2023/02/19

04[西木野真姫との二重奏]

「おはよっす、フユ」

下駄箱から教室へ向かっている途中にある一人の男に声をかけられた。

彼はジョージ。2年連続同じクラスで出席番号が近かったので何となく仲良くなった。ジョージの特徴は何かと聞かれても答えるのが難しい。ジョージはパッとしないのだ。僕が言えることでは無いのだが。そう、彼はまるで僕みたいだ。僕もパッとしないということになるが否定はできないがどうでもいいのが正直な感想だ。

僕はだいたいジョージともう1人の友達の豊と共に学校生活を送っていた。

豊は多分今日も遅刻だな。

僕は適当に挨拶を返してひとつ気になったことを聞いてみた。

「そういえば君、なんでライブみにこなかったんだ?」

ジョージから一気に血の色が消えてギョッとしたのが目に見えてわかった。ジョージが肩にかけていた汚い学生鞄がずるりと下がった。


「、、、え、μ'sのライブって昨日だったっけ。」

僕は呆れながら視線をジョージにやった。

「うわぁあー。忘れてたぁあ。」

ジョージは手で頭を掻きむしりながら言った。

「なんで教えてくれなかったんだよぉ!」

勢いよく僕の方に身を寄せてきた。朝っぱらからうるさいヤツだな。

「歌って踊ることりちゃんが見れるはずだったのにぃぃぃ、」

言葉が続くにつれてだんだんと勢いも落ち着いてきて、やがてジョージのパラメータはマイナスに到達した。

僕は少し可哀想だなと思いながらも呆れながら答えた。

「1ヶ月前から絶対に行くとか言ってたやつが忘れてるとは思わないだろ。」

「おあぁあ。見たかったのにぃい。」

ジョージは涙声にもなりながらそう答えた。

「とてもいいライブだったよ。」

とにこやかに言うと、ジョージがハッとして目を点にしながら僕に視線をやった。

「え、待って、フユはライブ行ったのか?」

ああ、とだけ答えるとついにジョージは壊れた。

「裏切り者がァあ。」

全く、僕がいつも登校している時間帯はざわついているので大きな声で喋ってもあまり目立たないが鬱陶しいのでやめてほしい。

「、、、なんで、おしえてくれなかったんだよぉ。」

適当にあしらっていると次第に萎んだ姿になった。

「何度も言うが忘れてるとは思わなかったからだ。てか君らは昨日何やってたんだよ。」

もしかしたら、昨日の放課後に真面目に新入生歓迎会の反省会を開いていたのかもしれないし、勉強でもしていたのだったら少しくらいは慰めてやろうと思ったので聞いてみた。


「、、、新しいギャグの開発」


ダメだこりゃ。


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2時限が終わり次の授業は体育だ。僕は運動が出来ないのでとても憂鬱な気持ちになりながらもだらだらと着替えのジャージの準備をしていた。

女子が更衣室で着替え、男子が教室で着替えるというのが我が校のルールだった。

この学校は僕らの代で共学化したということもあり男子更衣室がまだ用意されていなかっのだ。

クラスの大半の女子が更衣室に移動して教室の男女比が同じくらいになったころ女子から声をかけられたのがわかった。

声をかけてきたのは高坂穂乃果だ。

「ねぇ、君、昨日のライブ来てくれてたよね?」

「、、、はい、行きました、昨日」

いきなりだったので少しフリーズしてしまった。言葉も途切れた。女子と話す機会の少ない男子なんてこんなもんだろう。

「ふふ、見に来てくれてありがとうね!、、、えーっと、名前は、、、」

「馬場 冬です」

高坂さんが首を傾げ、自身の唇に手をやる。彼女の思考のアクションだろう。かわいい。そのかわいさを惜しみながらも僕はすぐさま名前を言った。

「そうだ。馬場君だ。思い出したよ。」

おおーという反応をして両手をポンっと合わせた。かわいい。とか思ってると高坂さんの隣に立っていた園田海未さんが僕に対して声をかける。

「馬場さん、昨日はありがとうございました。」

丁寧だな。高坂さんがかわいい、園田さんが綺麗といったところか。

なんにせよ、僕が女子から話しかけられるなんて珍しいな。

ライブを見れた上に話かけて貰えるなんて思ってもいなかった。

「いえいえ、とてもよかったですよ、ライブ」

園田さんからの言葉は別に急ではなかったがやっぱり言葉は途切れた。女子と会話することが少ないので緊張しているのだ。これが陰キャってやつなのか?

とか考えているとふといい匂いがした。匂いはしなかったかもしれないが何処かオーラを感じた。

「馬場くん!昨日はありがとう。来てくれてとても嬉しかったよ。」

この言葉で全てを理解した。

この声色、トーン、蕩け具合、彼女だ。

南ことりだ。

南さんは言わずもがな全校男子を心に掴んで離さない。ことりと言う名前とは裏腹に鷹の爪のように大きく鋭い彼女の魅力はがっちりと僕らの心をホールドして離すことはなかった。

僕は自信が使える最大限のコミュニケーション能力を使い彼女との会話に挑んだ。

「はい、どうも。とても、よかったです。」

僕のコミュニケーション能力はこんなものだった。言葉が途切れ途切れだ。

こんな僕に対しても彼女はにっこりしている。やべえ、なわいい。指がとろけてかわいいと打てなくなった。


そんなどうでもいいことを考えていると高坂さんがねぇねぇと言い言葉を始めた。


「馬場君って西木野さんと知り合いなの。」

高坂さんが僕の机に乗り出し聞いてきた。

「そういえば昨日のライブの時、一緒にいましたね。」

園田さんが高坂さんの疑問に続けた。

「そうですね、まあ、、、知り合いです。」

今回、言葉詰まったのは先程ようにコミュニケーション能力が低かったからではなく、僕と西木野真姫の関係についてどのように説明すればいいのかわからなかったからだ。

はて、僕と真姫は一体どのような関係なのか。少し悩んでいたら高坂さんの「そうだ!」という言葉で思考は断ち切られた。

「馬場君に頼んで貰おうよ!次の曲作ってもらうの!」

高坂さんは園田さんと南さんをきょろ、きょろと見た。

「こら、穂乃果。それは私たちの問題でしょう。私たちで解決しなければなりませんよ」

園田さんは意見するように言った。

高坂さんは少しぶーっと不貞腐れて、すぐさま立ち直った。

「そうだねぇ。、、、まぁ、何とかなるか!」

高坂さんが勢いよくガッツポーズをする。

そんな高坂さんに園田さんはやれやれとしていた。


「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、そろそろ着替えないと、、、」

そう言い出したのは南さんだ。僕もそろそろ着替えないと体育に遅れてしまう。

「そうだね。じゃあ昨日ありがとうね、馬場君。これからもμ'sをよろしくね。」

にっこりと高坂さんがそう言い小さく手を振りながら教室を後にした。

園田さんも南さんも高坂さんに続き教室を後にした。高坂さんに続いて教室のドアをくぐる二人と最後に目があった。園田さんは少しぺこりと腰を折りに微笑んだ。南さんは手を小さく降りかわいい微笑みをこちらに向けて教室を後にした。


「羨ましい」

「羨ましい」


クラスで着替える男子達は女子が教室から居なくなるまで待っていたので、こちらに視線が集まるのは当然のことだ。


「てか、君たち以外の男たちはなんでライブこなかったんだ。」

近くで着替えていた豊にこっそりと聞いた。

てか、学校来てたのか。

眠そうな顔をしながら豊は答えた。

「俺らのギャグの研究開発に誘ったんだよ。」


ダメだこりゃ。