2023/02/23

07[西木野真姫との二重奏]

「はぁ、はぁ。」

有り余ってる体力をしぼりだし教室へ向かう。遅刻確定30秒前、僕は全力で廊下走っていた。

残るは階段を上り数十mの廊下を走るだけだ。

心の中では勝ちを確信しながらも全力で走っていた。全力疾走といっても元々足が遅いので傍から見たらジョギングでもしてるのかと間違われると思う。自慢ではないが運動は大の苦手だ。小学生に混じってスポーツテストをしても最下位争いをする自信がある。それほど運動ができない。

そんなことはどうでもよくて、階段を鯉のようにバタバタと上り、最後のホームストレートに侵入しようとしたところで誰かとぶつかってしまった。

「うわぁっ!」

「おっと。」


お互いに少しだけ後ろに跳ね返った。

後ろに傾いた体制を立て直し視線をぶつかった相手に移す。

そこには、赤いリボンをつけたツインテールを可愛らしく纏っている小さな女の子がいた。

「すみません。」

「別に、大丈夫よ。、、、ってあんたまさか、、、」

僕は咄嗟に頭を下げて謝った。

女の子も少し申し訳なさそうにして謝りやがて僕と目が合った。

すると、女の子は次第に眉をひそめてムスッとした表情に変わっていくのがわかった。

僕はぶつかったことの謝罪が足りてないのだと思いもう一度頭を下げて謝ろうと試みた。

しかし、女の子の怒鳴るような声が曲がりかけた僕の腰を止めた。

「あんた、あの子たちに曲を作るのをやめなさい!あんなの、アイドルへの冒涜だわ!」

そう言って女の子は立ち去ってしまった。

僕は呆気に取られ、腰を少し曲げながら立ち尽くしてしまった。

走り去る女の子の後ろ姿しか見ることしかできず、次第に背中も壁に隠れて見えなくなってしまった。

キーンコーン、とホームルームの予鈴が僕をハッと目覚めさせた。

「はぁ。」

遅刻が確定し、ため息をついた。


いやまだ諦めるのは早い。担任がホームルームに遅刻してくる可能性があったので急いで教室に向かった。

もちろん担任が遅刻してることなどなく遅刻チェックを付けられた。


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「ふゆ君!おはよう!」

「おはようございます。冬。」

「ふゆくん。おはよう。」

1時限は移動教室。筆箱とノートと教科書を持って廊下を1人で歩いていると穂乃果と海未とことりに話しかけられた。穂乃果はとても元気そうに、海未はとてもおしとやかに、ことりは脳を蕩けさせるように挨拶をした。

「おはよう。」

「今日は遅刻だったみたいだね。」

僕が眠そうに挨拶を返すとニマニマした穂乃果がからかうように口に手を近づける仕草をとる。

「高坂、、、穂乃果達は今日朝練だったのか?」

苗字呼びになりそうだったが気づいて修正する。

実は1週間前にお互い名前で呼び合うことになった。曲を作ってもらったりそもそもクラスメイトなのに名前呼びはおかしいらしい。

彼女たちはもう慣れたようだが僕はまだ慣れない。

これがレベルの差か。

対応スピードと発想がまるで違う。

「うん!そうだよ!朝から海未ちゃんに走らされてクタクタだよ。」

「綺麗に歌って踊るには体力が必要です。それに朝の運動は健康にも良いです。」

「そ、そうか。がんばれ。」

朝っぱらから運動とはこれまた大変だ。朝起きるだけで辛いのに。

「そうだ。ふゆくんも一緒に朝練しない?」

ピコーンとおもいついたようにことりが言った。

ことりのとさかの上に一瞬電球が見えたような気がした。

「ナイスアイデアことりちゃん!」

「それはいいですね。遅刻しなくて済みますし。」

穂乃果と海未がことりの案に乗っかってくる。

「それにふゆ君、全然運動できてないじゃない!一石二鳥だよ!」

穂乃果が悪気なく僕に言い放つ。

運動できてないことを気にしていないので特に何も思う所はない。

僕ら2年生はクラスに男子が少数いるのだが体育はもちろん男女混合である。多分目にも当てられない僕の珍プレーを見てしまったのだろう。

ハーレムで羨ましいと思う人もいるかもしれないが、事実男子は肩身の狭い思いをしている。

その分男子同士で仲が良く、話したことがない人がいないくらいだ。

「ちょ、ちょっと穂乃果ちゃん、、、」

「あはは、穂乃果の言う通りだから大丈夫だよ。次の朝練はいつなんだ?」

気を使うことりの言葉を遮るようにして言った。

ことりと目を合わせ気にしていないことを伝えたら微笑みが返された。かわいい。

「明後日ですね。7時に神田明神集合です。」

「そ、そうか、、、いけたらいくわ。」

海未の言葉に恐怖感を覚えた。

7時神社集合ということは6時50分には起きていなければならない。

不可能である。

「ふゆ君それこない人が言うやつじゃん!」

「あはは、てか朝練といっても何をやってるんだ?」

ぷくっと頬を膨らます穂乃果。僕は上手く会話を逸らす。

「ええーとねぇ、階段を走って体幹トレーニングと筋トレをやってダンスの練習をしてるの。」

「階段ダッシュがきついんだよね。」

「穂乃果。アイドルをやるには体力が必須です。それに今朝、何者かに解散しなさいと言われたのでしょう?なら尚更、体力をつけてダンスと歌にキレをつけなければなりません。」

「へー、そんなことが。」

どうやら海未たちも僕と同じようなことを言われたらしい。

もうμ'sのアンチができたのかと思ったがまだ1回しかライブをしておらずまだ本格的にアイドル活動をしていない。

多分嫉妬だろうな。

人気者にアンチは必要条件だから仕方がない。

応援してくれる人の声に答えることを意識すればいいだけだ。

「そういえば僕も今朝、曲作るなって言われたな。誰だか知らない人に。」

僕の言葉に驚く穂乃果とことり。海未は落ち着いているように見えた。

「もっと真面目に練習しなければならないということですね。」

「そうだなぁ。まぁ、曲はしっかり作るから練習がんばれ。」

3人に目配せをしながら励ましの言葉を送ると穂乃果が元気よく答えてくれた。

「うん!ありがとう!ふゆ君も、ファイトだよ!」


そんな会話をしているうちに移動教室先に到着した。